3つのスキル~対人葛藤~

 

「ソレハデキマセン」と相手が言う。それに対して本人は「ソレハコマリマス。デキルヨウニシテクダサイ」。相手「スミマセン。デキナイノデス」。本人「デキルヨウニオネガイシマス」。そしてサイレンがなる。上司が慌ててやってきて、2つのロボットの電源を切る。

 

【対人葛藤】

AIの時代だ。コミュニケーションにもAI技術を活用したコミュニケーションが始まっている。筆者がかかわった大学の卒業生のA氏が現在はIT会社に勤務し、ロボットによるコミュニケーション技術を担当している。

冒頭の会話はロボット同士の協同の問題点を露呈しているとA氏は言う。相手の言い分に対して、それを認識し、対応するということができないのだ。

なお、実際の冒頭のやりとりはA氏の話を、筆者が少しデフォルメしているが、意図は同様だ。

この問題を進化させる実験が行われている。ロボットにはあらかじめ課題への対応方法が盛り込まれている。その課題対応にプログラミングされていない問題が起きれば、人間が解決する。

人間が関わると言うことではA氏としては面白くない。人間ではなくロボット同士のコミュニケーションで課題解決をしようとしているのがロボット・スキル技術進展なのだ。ロボット同士では対応できないスキルは何かを、人間が考えるのではなく、実際に“現場”のロボット同士の対話によって発掘していると言えばわかりやすいだろうか。

この課程で面白い事象が見つかったとA氏は教えてくれた。まだまだ未知の部分が多いロボット同士のコミュニケーション技術を進化させることにより、人間同士のコミュニケーションの不安定な部分が明らかになってきたというのだ。そしてその人間同士のコミュニケーションのスキル技術を探り出すのもA氏の業務に追加された。

人間同士のコミュニケーションは、ロボットに比較すると優れており、まともだと考えてしまいがちではあるが案外、そうでもない。対人的に葛藤することがありがちで、その葛藤に対応する能力は人間にしかないのだが、人間はそれが苦手だ。

ロボットには“対ロボット葛藤”はないが、人間にだけはこの対人葛藤がある。

 

【3つのスキル】

そもそもコミュニケーションには3つのスキルが必要であると言われている。第一は受容スキルだ。すなわち相手を受け入れるスキルである。反駁ばかりしていては何も物事は進まない。認めてこそ、双方が一歩進むことができる。

第二は主張スキルである。相手を受け入れるだけでは、当方の考えを伝えられないし、相手の主張通りに物事が進むだけである。反駁する主張スキルが必要となる。これも双方が一歩進むことにつながるのだ。

受容と主張の双方があってこそ、成長や進化につながるのだ。冒頭のロボット同士の状況は、受容はなく、主張ばかりが発せられ、結果的に成長・進化の機会が凍結された状態である。対人葛藤のままで止まってしまう状況だ。

この対人葛藤が問題なのだ。なんらかの解決策を見出さねばならない。第三の葛藤解決スキルが必要なのだ。対人葛藤が起きる原因の多くは感情だと言われる。そしてこの感情は人間にはあるがロボットにはない。

「今から10年後にはロボットは第三の葛藤解決スキルを得ますよ。コミュニケーションは人間よりロボットの方が優れるようになりますよ」とA氏は言う。