キー・リファレンス・ポイント

星新一氏の作品に「約束」(星新一著「ぼっこちゃん」新潮文庫)がある。ざっと説明しよう。ある日、子供達のもとに宇宙船が着陸した。子供達は困っている宇宙人を助けてくれた。宇宙人は子供達にお礼をしようと希望を聞いた。宇宙人が地球よりすぐれた文明を持っていることを知った子供達は「大人は自分たちの都合の良いことばかりしているからあらためて欲しい」とお願いしたのだ。宇宙人は言った。「これからよその星での仕事があるから、そこが終わったらすぐに地球に戻って君たちの約束を守るよ」

 

 

【Z世代】

サンフランシスコの友人のアメリカ人の話だ。「中間選挙(2022年11月9日)でZ世代が民主党に投票したと報道されているよ。気候変動が若者の間で注目されているみたいだ。私の子供たちもZ世代だよ。今は大学生だけど、卒業してからも気候変動対策に取り組むって言っているよ。でもいつまで続くかな。心配だよ」

友人は大学の先生で行動経済学を専門としている。友人が言う心配とは以下になる。「今は大学生として気候変動に取り組んでいるけど、社会人になったらキー・リファレンス・ポイントが変わるかも知れないのだよ。それが心配だ」。

リファレンス・ポイントとは行動経済学のプロスペクト理論で言うところの参照点のことだ。プロスペクト理論は行動経済学では著名なノーベル賞受賞者のリチャード・カーネマン氏達が導き出した理論だ。

参照点とは筆者の理解では損と得の分岐点となる。分岐するところには点が存在するということだ。これを幅広くとらえれば、損と得に限ったものではない。私たちの日常における考え方はさまざまに反応して、分岐する。その分岐の点が参照点なのだ。自分という固有の人間の持つ考え方における分岐点とも言えるだろう。

友人はこの分岐点に、追加で「キー」を加えている。キーは基軸を意味する。基軸とは基盤となる軸であり、そう簡単に変わるものではない。これらを踏まえると、友人が言うのは「Z世代の子供たちは基軸となる参照点として気候変動を置いている」ということだ。気候変動が重要であることは中心の軸であり、やすやすとは動かないのだ。

「Z世代の発信力はすごい。そして、その発信される情報を受け止めるZ世代の数もすさまじい。彼らは、コミュニケーションとして少し前のように電話や対面会議ではなくSNSを利用する。SNSの情報拡散力はすさまじく、SNS上で気候変動がキー・リファレンス・ポイントだとなれば、それは世界中のZ世代に間髪入れずに拡散される。そして、すさまじいパワーになるわけだ。でも、一方で、彼らは社会人として働くこととなる。そこから、社会人としてのキー・リファレンス・ポイントが変わるのではないか。それが心配なんだ」

 

 

【大人への変貌】

Z世代のキー・リファレンス・ポイントは気候変動に対する対応にある。

冒頭の星新一氏の「約束」に戻ろう。宇宙人は仕事を終えて地球に戻ってきた。約束した子供達を探し出すと彼らは大人になっていた。そして宇宙人に「そんな約束したかな。今は金儲けしなきゃいけないんだ。いまさらよけいなことはしないでくれ」

Z世代に限らず、人間は全て年をとる。どれだけ年を取ってもキー・リファレンス・ポイントは変化しないことを切に祈る。