ゴールキーパー

近畿地方の中学のサッカー部の話だ。

「毎年、サッカー部に入りたいと言う少年、少女はいっぱいで定員オーバーは当たり前なのですよ。大変です」

筆者は言う。

「贅沢な悩みではないですか。サッカー人気のすごさと言うことであって監督が悩むことではないと思いますが」

「定員オーバーを悩んでいるのではないですよ。定員オーバーほどに集まるのに『ゴールキーパーは嫌だ』と言うのです」

 

【ポジション】

監督は話を続ける。

「サッカーに初めてトライする中学生はともかく動きたいのですよ。走ったり蹴ったりしたいのですよ。私だって中学生の時にはサッカー場で走り回りたかったですよ。ゴールキーパーにはなりたくなかったです。でも仕方ないから私はゴールキーパーになりました」

サッカーにはポジションがある。フォワードは最前線で自分自身が目立つポジションだ。誰しもあこがれるだろう。ゴールを決める役割だ。攻めと守りのどちらにも興味があればミッドフィールダーだと監督は言う。攻める側にいる時もあれば、守る側にいる時もある。変幻自在だ。中心にいたければはセンターで、両脇を守るならサイドフィールダーとも言う。

守るに焦点を当てるとディフェンダーだ。これにも中心に位置して守るセンターバックと、左右前後の両脇を守るサイドバックがある。そして、守りの極み、あるいは中核がゴールキーパーだ。

監督は続ける。「ゴールキーパーは守りの“極み”と言えばやりがいも出ますが、なにせ中学生と言う育ちざかり、動き盛りの男女ですよ。ゴールキーパーって試合中に走ったり蹴ったりしないですよね。練習も他のチームから離れて、ひたすら蹴られてくるボールをつかむか弾き飛ばすわけですね。そりゃ誰もやりたくないと思います。でもゴールキーパーがいないと試合にならない」

どうすればいいのだろうか。ゴールキーパーはつまらない。蹴りたい走りたい。でも全員がそれをやればゴールキーパーがいなくなり、相手からの攻撃に無防備になってしまう。

 

【会社のゴールキーパー】

監督は言う。「縁があって大阪の社長会に呼ばれたのです。その時に社長たちが『俺たちはゴールキーパーなんだよ。従業員たちは日々、走り回って蹴りまくる。相手チームに攻めてこられてボールが蹴られた時だけゴールを守る。競合する会社が攻めてきた時、株主から要求された時、買収されそうになった時に必死になってゴールを守る。これが社長の役割なんだよ。ゴールキーパーだよ』って教えてくれたのです」

社長会の社長たちは口をそろえて「ゴールキーパーは走ったり蹴ったりするのではなく、大声をあげてチーム全体をまとめる最重要な役割だ」と言ったそうだ。「味方と敵の選手の動きを上から俯瞰的に見て、大声で指示を出す。タイミングに合わせて声を張り上げる。中心的ななくてはならない存在なんだよ」

監督は今、新入サッカー部員に必ずこの話をするそうだ。そして選手全員に定期的にゴールキーパーの役割を与えるという。

監督は今、社長会に提案しているそうだ。「社長の役割も定期的に、疑似的に若手にまかせると面白いですよ。社長が独り占めせずに、従業員にまかせることで会社の大変さも良さも従業員は学ぶことで会社というチームが大きく変化すると思いますよ」