コミュニケーションというコスト

「さて・・・ここまでがわが社の貴社に対するご提案です。1時間ほどお時間をいただき大変ありがとうござい・・・」

クライアントへのオンラインミーティングを終えた部長は、心の中でほっとした。その時だ

「部長、部長。なにやってるんですか」

課長が部屋に入って来た。課長は苦笑いで言う。

「相手の部長さんから1時間前にチャットで『申し訳ないですが延期してください』って入ってますよ」

「えええ。さっきまで話した内容はどうなったの?」

「ただPCに話しただけですよ」

 

 

【コミュニケーションコスト】

オンラインミーティングは、今の時代には必須である。対面であれば相手の“直の”存在はわかる。しかしオンラインでは難しい場合がある。顔や音声をあえてミュート(消す)にして、相手のプレゼンテーションの資料画像をPCの画面に集中することもある。そうなるとプレゼンテーターとしては相手の存在の把握が難しくなる。

冒頭に出てきた部長は、相手に向けてオンラインで話しているつもりだったのだが、その相手が存在しない状態というわけだ。この状態では「時間の無駄」が起き「伝えたい情報が伝わらなかった」という「やる気の無駄」も起きる。

せっかくのコミュニケーションが無駄になるだけでなくコストが発生しているのだ。コミュニケーションコストである。

私たちは日々、コミュニケーションを行っている。家族との、友達との、ご近所さんとのコミュニケーションを行っている。これらはコストではあるが、メリットでもある。このような仕事ではない場合におけるコストとメリットの違いは単に心理的なものである。

一方、会社におけるあるいはビジネスにおけるコミュニケーションは明確にコストだと考えるべきだ。心理的にとどまらず金銭的でもあるのだ。会社は収益を必要としており、その収益を生み出すためには社員間での、クライアントとの、そして関係者とのコミュニケーションを必要とする。それゆえにコミュニケーションを実行する。これはコストである。

コミュニケーションと言うコストをかけることによってリターン(収益)を生み出すことで、会社の価値が生まれることとなる。

 

 

【コミュニケーションコストの算出】

コミュニケーションコストを算出している会社があるというので状況を教えていただいた。今回は営業部についてである。まず営業部が行なっている社内、電話、オンライン(SNSを含む)によるコミュニケーションの時間を合計する。

営業部員全員がトータルで費やしたコミュニケーションの時間をひと月分合計する。営業部では、なんと全業務時間の60%がコミュニケーションに費やされていた。残りの40%が収益に結びつく実働であり、クライアント向けの資料作成や、製品の製造なのである。

そこで、会議の時間をこれまでの50%にし(1時間なら30分に変更)、メールの回数と分量も50%にし、一方で電話を頻繁に利用した。電話による会話の情報量はメールより多いために効率的なコミュニケーションになるのだ。これによって翌月の収益をプラスに変化したという。

テレワークの時代に、オンラインのコミュニケーションが必要になることは仕方ないのだが、つい無駄なコミュニケーションコストが出ていないだろうか。