ネオ・ジョブ型勤務

「私は半導体製造部で不活性ガスを半導体の製造に利用してます。不活性ガスって例えば窒素とかです。外部から遮断された空間で誰とも会話せず数時間の間、ただひたすら半導体の出来上がりの様子を監視しています。面倒なのは入室時に異物が一切混入しないように帽子、白衣、靴とかに着替えることです。30分ぐらいかかります。会社を出る時も、今度は脱がなければならないので大変です。トイレとか・・・お腹がグルグル鳴り始めたら恐怖です。トイレに駆け込むのに30分かかりますから」。聴衆から笑いが起きる。

「ぜひ、我が部にいらして下さい。今の部署より楽しいですよ」。

 

【ネオ・ジョブ型】

とある電気メーカーの話だ。40ほどの部署がある。それぞれの部署には当然のことだが従業員がいる。新卒の従業員もいれば、中途入社もいる。40の部署は冒頭の話のような半導体等の製造系もあれば技術、情報、営業、企画、財務、人事、あるいはAIや宇宙工学といった最先端の部門もある。

人事部の取締役A氏は言う。「従業員数は子会社を含めて1万人弱です。少し前まで中途退職が多かったのです。それでジョブ型で外部採用を増やしたのです。でも考え方を変えました。そして既存の従業員の情報把握に特に力を入れました。なぜだかわかりますか」。A氏は得意げだ。

なぜかと言えば、この会社は今、中途退職ゼロキャンペーンを掲げているからだ。従業員の定年退職という退職だけはいたしかたないが、それ以外の理由での退職をなくそうとしているのだ。人材のつなぎとめという確保策を最重要課題としているのだ。

A氏は会社としての独自指数を開発した。その名は「理念指数」である。この指数は、端的に言えば「従業員数と年齢と勤続年数を合計」したものだ。従業員数だけを把握するのではない。年齢だけではない。ここに勤続年数を加えて指数化するのだ。

A氏は「今、注目されているジョブ型はその時点において“できる”従業員を獲得する手段としてはすぐれている。しかし、その“できる力”は時間とともに退化する。すると新たに“できる力を持つ”従業員を採用する。この流れは一見合理的に思えるが、極めて非合理的だ」。

なぜ、非合理的なのだろうか。「なぜなら、企業というのは、まず企業自体が持つ理念を共有することが絶対条件だ。担当ジョブだけにこだわると企業の全体像が見えなくなり、企業の理念を理解できず、共有できるだけの時間の余裕がない。理念が従業員間で共有されなくなる」。

 

【話すのがもっとも確実】

企業においての従業員に限らず、人材の役割は「企業の理念の共有」であり、そのためには時間が必須だというわけだ。短時間の目的に合う人材を、次から次へと外部から補強するのではなく、社内の人材が、今、必要な業務を自ら学んでいくことで、その従業員は企業理念を維持したまま、企業に役立つ存在となる。少々、時間はかかるが、理念が維持されることで企業は伸びる。

転勤・異動に従業員の意見や自由度が取り入れられない昔風の終身雇用とは一線が敷かれている。人材の入れ替えが常態化するジョブ型でもない。人材は終身雇用的に維持しつつ、企業内で希望する学びや成長の機会を活用できるネオ・ジョブ型であれば理念を維持したままで必要人材を育てることができるのだ。