ホメコミュ

犬ってどんなイメージだろう。人間とともにいてくれるかけがいのない仲間。自分のために尽くしてくれる存在といったイメージだろうか。中には「飼い主を自分(飼い犬!)の執事だと思って、飼い主にさまざまな要求をしてくる存在」と考える方もいるだろう。誰あろう、筆者もその一人だ。家族としての順位は妻、子、飼い犬、夫となる。

 

【油断禁物】

「飼い犬は家族ですが、そこには会社員としての関係があるんですよ」。こう言うのは群馬のドッグトレーナ-だ。「飼い犬は自分の言うことに従ってくれるとか、かけがえのない家族だと思ってくれていると“油断”している部分もあるかもしれません。それを否定はしませんが、会社員としての飼い犬の存在を認識する必要もありますよ。給料を出さないと会社員は動き出しませんよね。飼い犬だって同じです。もう飼われているというか、雇われているのですから」。

トレーナーが言う給料とは餌のことだ。犬を“飼い犬”にするための基本は餌である。なにかを指示して従わせる。例えば座るという指示に従うには、飼い犬をトレーニングしなければならない。指示に従って座れれば餌を与える。指示通りにしないと餌は与えない。

指示に従う=餌あり、指示に従わない=餌なしの状況をくり返すことにより、犬は指示に従うことで、餌という給料を得ることができると考える。

「大事なのはこれだけではありません。犬が指示に従ってくれる時には餌を与える前にほめるのです。なでるということでもいいですし、声に出してほめることでもかまいません。犬によってなでるのが好きとか声でほめるのが好きとか、好き嫌いは分かれます。いずれにしろ、餌の前にほめる、そして餌を与える。この繰り返しで飼い犬は会社員になってしっかり仕事をしてくれます」。

この状況を継続すると、飼い犬はほめることで、次の仕事をしてくれるようになるとトレーナーは言う。餌は不要で、ほめることで飼い犬は仕事にやりがいを見いだすようになるということだ。ただし、餌は朝夕の決まった時間に与えることは必須である。

 

【ホメコミュ】

さて、なぜドッグトレーナ-の話をしているのか。それはこのドッグトレーニング技術が、民間企業で人気があるからだ。飼い犬をほめるということは、すなわちほめるコミュニケーションをとるということだ。ほめるコミュニケーションを略してホメコミュと名付けられている。一般的に3日のコースだ。

ホメコミュの1日め。まず数匹の犬が企業のセミナールームに現れる。参加者の半数は餌を持ち、半数は持たない。当然のごとくに餌を持つ参加者に犬は集まる。当然である。企業だって給料をもらえる会社に従業員は集まる。

2日めに参加者全員が餌を持たずに、犬とコミュニケーションを取る。笑顔で、そして姿勢を低くして目と目が向き合えるようにする。餌はなくともこのコミュニケションで犬は指示に従ってくれるようになる(ならないこともある(笑))。

3日めには参加者は犬に座れという指示を与える。犬たちは訓練されているが、中には座らない犬もいる。指示に従えば笑顔でなでる。従わなければ真顔で再度指示を出す。怒り顔は禁止されている。こうして参加者と犬の関係が生まれる。

私たち、企業勤務になれてきて油断していませんか。給料もらえるんだからって、人間を甘くみてませんか。人間も犬と同じ。ホメコミュが必須なのだ。