サステナブルは簡単ではない

保険系の会社の会長から連絡があり訪問した。会社は東京駅のほど近くにある。入り口に「サステナビリティ―得意忘言」と書かれた張り紙がある。入り口だけではなくいたるところに張られている。なんだこれ?

 

【サステナブルとは?】

会長が言う。「わが社でCSOを設けることになって、私がなったんだよ」。

「チーフ・サステナビリティー・オフィサーのCSOですね。それは素晴らしいですね」と筆者は返す。会長は言う。「すばらしいこと・・・多分、すばらしいことなのだろうとは思うけど・・・CSOってサステナビリティ―の責任者だろ。サステナビリティ―は持続可能性だろ」

サステナビリティー、つまり持続可能性とは何か。2000年の国連の定義で考えれば、MDGs(ミレニアム開発目標)が国際的な認識のスタートではないだろうか。この地球規模で貧困、医療、人的平等などが目標となり、その後、2015年からはSDGs(持続可能な開発目標)となった。この時点から、筆者としては民間企業を含めて、誰しもが対応が求められると認識している。

会長は言う。「SDGsに対応することは会社としては必須であることはわかる。単に対応するだけでなく、結果を残さなければならないと思うのだよ。そのために何が必要かを考えたんだ」。

会長は続ける。「私を始めとする取締役委員会でサステナビリティ―委員会をやってもダメだろう?ダメだよな?どう思う?」

会長の質問の意図はSDGsに代表されるサステナビリティ―について、取締役会だけではだめだということだ。会社において、それを実現させるためには、従業員を含めた、全員がサステナビリティ―について理解し、行動する体制を維持し存続しなければならないと言うことだ。

会長は「会社という人間の組織が、全員でサステナビリティ―について維持・存続するためには、全員のコミュニケーションの維持・存続が不可欠だ。サステナビリティーの実現にもっとも必要なのは会社内のコミュニケーションだ」と言うのだ。

 

【得意忘言】

「サステナビリティーが我が社において得意忘言の境地になればいいのだけれど、得意つまり“思いが日常の普通に行為に落とし込まれる”前に忘れてしまうんだよ。それを、回避するためにはコミュニケーションを継続しなければならないんだよ」

さて、得意忘言の意味をご存じだろうか。筆者は恥ずかしながら知らなかった。会長が言うには荘子の言葉だそうだ。「本当の姿を理解して、初めて言葉なしで行動できる」と会長は言う。会長の懸念は、CSOを設けてサステナビリティーについて会社の中で盛り上がるのはいいが、すぐにその本質を忘れてしまうということだ。

得意忘言は、サステナビリティーについて徹底的にさまざまな事象を理解し、それが自然体になるということだと会長は言うのだ。しかし会長は言う。「そんな天才は私を含めていないよ。サステナビリティーに得意忘言に至る前につい忘れてしまう。仕事が忙しいからね。だからコミュニケーションが必要なのだよ。CSOの役割は常に会社においてサステナビリティーの必要性をコミュニケーションに織り込むというわけだ」

というわけでこの会社では、定期的な従業員を含めた会議と共に各部署に「サステナビリティ―得意忘言」という張り紙がされている。日々、目にすることでコミュニケーション力によるサステナビリティ―が維持されるというわけだ。