SなのかTなのか~スピークとトークの差~

大学には英語のクラスがある。先生はイギリス人のネイティブだ。その先生から興味深い話を聞いた。

「これから大学生達は社会人になりますよね。さまざまなコミュニケーションを行うことになりますがSだと伝わらないのですよ。Tでなければダメなのですよ。日本人はSとTの違いを学んできたのでしょうか?中学校から英語を学んでますよね。しっかりSとTの違いを認識しているのでしょうか」

 

【SとT】

先生が言うSとはSpeakだ。イギリス人の彼によれば「スピークは話すと言うことなのですが、相手のことを考えていない場合も含まれています」。なんからの言葉を発するのだが、相手の受け止め方や、相手の反応を期待しない場合を含めて話すのがスピークだと彼は言う。

「英語の勉強を例に挙げましょう。英語を覚えるために発音しながら声を出しますね。例えば目の前の壁に向かって話しますね。経済のことは英語ではEconomicsです。覚えるために壁に向かってエコノミクス、エコノミクスって繰り返し声を出します。この時に相手の反応はありません。壁ですから反応はなくて当然です。これがSのスピークです」。

「私は授業の開始時に必ず『Let’s speak English』と言います。「英語を使って話しましょう」という意味のSです。この時に、生徒さんの返事は求めません。覚えてもらえばいいだけなので、相手の返事は不要です。これがSなのです。でもTは違います」。

先生によるとTはTalkのことだ。トークはこちらから話すということに加えて、相手からの反応を期待するということだそうだ。自ら話す内容に対して、相手からの反応を待つ。加えて、反応に対して、自分からまた話を返す。こうして、双方が伝えたいことが、行き来してコミュニケーションが盛り上がる。これがトークというわけだ。

「ご飯を一緒に食べようよ」という問いに対しては相手の反応を必要とする。「いいよ」「今日はダメなんだよ」のどちらかの返事を必要とする。この場合は、ご飯を食べようと相手にトークしていることになる。

 

【言うだけでは・・・】

 先生が困り顔で言う。「卒業した生徒が社会人になって久しぶりに私とトークしてくれました。ITの会社で働いているのですが対面で話すのが苦手だと言うのです。メールで伝えるらしいのですよ。彼はメールはスピークだから楽だって言うのです」。今の時代、メールで伝えるのはよくある話だし、問題はなさそうなのだが先生は困り顔だ。

「社会に出たのであれば、クライアントとか会社の従業員とかとトークをして相手の反応を学んで、それに対して、また伝える。その絶え間ないやりとりで成長していくことが必要ですよね。それは時としてつらいけれど、そのつらさを耐えてこそ立派な社会人になるわけですね。でも、元生徒はメールによるスピークという、ともかく相手に知らせればいいというSの領域に入っているように思います。これがメールの怖いところなのです。ともかく相手に言っておけばいい。相手の返事を待ち、またそれに対して返答するというやりとりを面倒に考えていると思うのです。日本語にはSとTの違いはあるのですか。日本人はしっかりと言葉のやりとりの必要性を学んでいるのでしょうか」。

オンラインが普通になった今、つい私たちはTの重要性を忘れているのではないだろうか。