ディスポジション部

金融事業を行っている会社のある部門に学びの機会として伺った。社長が言う。「正直なところ困ったあげくのはてのことでしたが、想定以上にうまくいっています」。この会社は業績が伸びているとともに、何よりも20、30代の若手の従業員の退職率が激減しているのだ。どういうことだろう。

 

【ディスポジション部】

この会社の20、30代の退職率は20%を超えていたという。会社の維持は不可能だ。なんとかしようと策を練ったが、給与額は同業と比してほぼ同等だ。労働時間も同様だ。若手の社員の比率が高く平均年齢は29歳6か月。55歳を超える社員数は、一時、ゼロになった。これって、いいことではないだろうか。若く、元気があり退職率が低くなるのではないだろうか。なぜ、反対の事象が起きたのか?

社長は2年前に就任した。その時の問題は社員の高齢化であった。55歳以上が社員の50%を超えている状態を考慮し、退職を促したと言う。もちろん、転職先を探すことや、退職金を積みます等の手立てを打ったので「退職者からお礼を言われるほどでした」とのことだ。

若手が中心になった会社で起きたことは、業務における失敗に対する対応の不活性化だ。企業においては失敗は免れない。失敗しない会社なんてありえない。この会社は営業が中心なので、さまざまな失敗が起きる。これに対して的確に反応し、対応しなければいけないのだが、若手の社員は失敗を自分自身に閉じ込める傾向にある。それゆえに失敗に対する対応が社内において不活性化する。「失敗した」という事実を誰にも話せない。

不活性化するのは、失敗に対する社員の会社への対応だ。社員の心の中に居座る「失敗」という認識は逆に活性化する。それがゆえに会社の仲間へのコミュニケーションにいたらずに「もういいや」となって退職してしまう。会社としての営業能力は落ち、若手は退職し、ますます営業力が落ちてしまう。マイナスの活性だ。

社長は言う。「解決策は古参の社員の呼び戻ししかなかったのです。彼らは、営業の成功も失敗も経験しています。なかでも失敗に対応できるのです。それがゆえにディスポジション部を作りました」。

ディスポジションとは損失回避だ。本来のディスポジションは損を認めることができずに逃げて行くことを意味する。まさに若手社員が陥ったことだ。ただし、この会社のディスポジション部は損失を、営業担当と分け合うこととした。部の社員の平均年齢は62歳だ。

 

【経験力】

部の社員は、営業担当の若手と対話する。対話は上司部下の関係ではない。若手が不活性化(心の中で活性化)している失敗ごとを、部員がシェアをする。失敗の解決策を部員が経験をもとに話し、それで若手に解決策が生まれることもある。ただし、これは確率的には高くはない。

多くの場合、若手の失敗の半分をディスポジション部員がシェアするのだ。若手とともに部員が、営業先に赴いて、いっしょに解決策を営業先と話し合うのだ。部員は若手とともに失敗はあやまり、解決策を提示する。これで営業は継続する。

会社で営業を行えば失敗はつきものだ。しかし、つい失敗を回避しないように考える。失敗を損失ととらえるのだ。そしてこの失敗を会社でシェアできず、そして会社を辞していく。この状況を、若手の責任と考えるのではなく、会社の経験者達とシェアするのだ。

今、ディスポジションビジネスが面白い。