太陽が上半分だけ見える。下半分は海である。こんな絵って見たことありませんか。
さて、これを見たあなたはどう思うだろうか。「陽が顔を出したぞ。よし、今日も頑張ろう」だろうか。それとも「陽が沈むなあ。今日の仕事はおしまいか」だろうか。
半分だけ、陽が見えているというこの光景をどのようにとらえるか。アメリカのコンサルティング会社が、ヘルスケアの会社からの要請で、陽が半分だけの絵を従業員に見せて調査した結果がある。陽が昇っているのか、陽が沈むのかは、この絵が止まっているからわからない。次の動きは自分の心だけが、自分の心に記すのだ。
「陽が昇る」と答えた従業員はこれからの行動に自信を持っており、陽が沈むと答えた従業員はなんらかの不安あるいは不満を持っていることが多いとコンサルタントは言う。陽が昇るはプラス思考で、沈むはマイナス思考ということであろう。
【錨はどこにあるのか】
アンカリングという認知心理的な現象がある。アンカーとは錨のことを指す。錨が降ろされれば、その範囲でしか船は動けない。錨を自分が心の中のどこに下ろすかで、自分自身の考え方の“軸”が決まってしまい、その軸に基づいてしか心が動かなくなるというのだ。
冒頭の「陽が昇る」のか「陽が沈む」のかは、自分の心が陽が昇る側にアンカリングされているのか、反対の沈む側にアンカリングされているのかを把握できる可能性があるというわけだ。
ヘルスケア会社の社長がこの調査をした趣旨を説明しよう。従業員の業務時における気分の在り方を調査し、陽が昇る回答の多い場合の業務量と、沈む場合のそれとを調査した。すると、陽が昇ると回答した従業員の業務量が平均よりも多く、沈むと答えた場合は平均以下なのだ。およそ、100日間にわたる調査の結果だ
従業員が陽が昇る側にアンカリングされていれば、従業員の業務量が増す。当然、社長は考えた。「従業員の心に陽が昇る側にアンカーを下ろすにはどうすればいいのか」。
授業員の心のありようを調べることはむずかしい。AIをもってしても、人間の心の動きは簡単に知ることはできないのだ。給与を上げる、社食を充実させる、勤務時間帯を自由にする等のさまざまな施策を試したが、どれも陽が昇る方にアンカリングされたかどうかはわからない。
【対話が解決】
社長はとうとう従業員に聞いてみることにした。「君たち、従業員の心のアンカーを陽が昇る側にしたいのだがどうすればいいだろうか。君たちの心のアンカーは日々変わるようだ。人間の心はその時の気分で変わるし、それを社長がコントロールすることはできない」。
社長は続ける。「従業員の気分を陽が昇る側にいる理由が知りたいのだ。理由がわかればアンカリングが可能となる。給与でもランチでも勤務時間でもないらしい。どうすれば陽が昇るのだろう」。
さて、解決策は何だろうか。読者は何を思いつかれるだろうか。
従業員からの回答は簡単なものだった。実に単純だったのだ。「え?そんなことで社長は悩んでいたのですか。それなら、もっと早く『君の気分は、陽が昇っている側にあるかい』って言ってもらえれば、すぐに私たちの心は陽が昇る側にいきますよ。誰かと話せばすぐに心は切り替わります」。
ちょっとしたコミュニケーション一手間だけでで、人間のやる気は陽が昇る方にアンカリングされるのだ。