ティータイマー

あるIT系の企業の話だ。この企業では水曜日の午後3時から4時までがティータイムとなっている。50人ぐらいがミーティングルームに集まってお茶を楽しみながら話をする。

総務部、人事部、運用部、営業部、システム部、海外業務部等々の部署から集まった人たちだ。ほぼ初対面な参加者は5人ずつぐらいに分かれる。皆がお茶を楽しみながら和気藹々と話を弾ませている。

さて、この状況、このティータイムって不思議に感じませんか?

 

【和気藹々なんて不自然だ】

全員が同じ企業に勤務するとはいえ、ティータイムの参加者のほとんどは初対面なのだ。初対面が和気藹々なんて不自然だ。一般的に、企業では部署ごとにわかれてしまうとお互いが知り合う機会は限定されてしまう。同じ企業でも、他の部署とのコミュニケーションの密度はかなり希薄なものとなる。部署内でのコミュニケーションに限定されてしまう。

同じ企業内で、部署異動があれば社員同士が知り合う機会は自然と増えるであろう。しかし、一般的には転勤や部署移動には数年はかかる。勤続が長ければ、すなわち年齢が高まれば社員同士での知り合いは増えて行き、コミュニケーションが取りやすくなるのだが、これには時間がかかってしまう。

終身雇用制でありメンバーシップ型であれば、部署が異なったとしても、転勤・異動によってコミュニケーションは増えて行く。しかし、今は、メンバーシップ型からジョブ型に切り替わりつつもある。ジョブ型では、同じ企業にいるにも関わらず、知り合う機会もないままに、時間ばかりが過ぎてしまう。こうして、社員は「同じ会社なのに他の部署が何やっているか知らないなあ」と悩みを抱えることになる。

今からおよそ200年前に、イギリスの大学の先生たちが同じ悩みをかかえたと聞いている。例えば、物理学の先生は経済学に興味はなく、経済学の先生は物理学に興味がない。このままでは、せっかくの物理の技術が経済発展に生かせない。そこで、大学の先生たちはティータイムを設けた。異なる部署の者同士でお茶を飲みながら異なる分野の知見を高めるのだ。

しかし、皆、お茶を飲みには来るがコミュニケーションが弾まない。そこで大学ではティータイマーを雇い入れたのだ。ティータイマーとは、正しくは時計だ。紅茶が的確に出来上がる時間を計るのだが。ここで言うティータイマーは、お茶を飲んでいる人同士を的確に結びつける役割を持った人のことを言う。イギリスの大学のティータイムはこのティータイマー達の参加で盛り上がったのだ。

 

【ティータイマー】

ティータイマーは、知らない者同士を結び付けて、コミュニケーションを活性化させる。専門分野の知見はないが、人と人の会話を造成することの専門家なのだ。

冒頭の話にあった50人ぐらいは正確には55人だ。そのうち50人は企業の人材で残りの5人はコンサルティング会社から派遣されたティータイマーである。ティータイマー達は、企業の人材を4~5人程度に分散し、彼らの会話のスタート役となる。

会話が弾み、しばらくすると、またティータイマーが動いて、数人を移動させる。移動された数人が入ってくると、そのチームのティータイマーは、また、数人を別のチームに移動する。こうして、常に4~5人のチームでの和気藹々の会話が進むというわけだ。

別の部署とのコミュニケーションの活性化で、企業内に新たなアイデアが生まれるのだ。