コントロール欲求

「相手はたかがロボットなんですけど・・・でもなんだか怒りが抑えられず」

怒りをともなう不快感はコミュニケーションではつい起こりがちなことなのだが、いったいどうしたというのだろうか。

これはある企業における実験なのだ。人とロボットの行動が人の意識にどう影響するかを調べる実験だ。

 

 

【ロボットとの実験】

コントロール欲求という言葉がある。人間は、他者に対して自分の思い通りに動いて欲しいと考えがちだ。特に、双方が近しい関係にあるほど、そして自分の方が上位にあると考えればコントロール欲求は高まっていく。

実験に話を戻そう。ある企業の企画部のA氏とロボットが二人?で実験に参加する。やるべきことは200枚の表向きの10円玉(平等院鳳凰堂が見える側)を100秒の制限時間内に一人と一ロボットが100枚裏返す(10円という数字側)のだ。

10円玉を裏返すには少々こつが必要だ。慣れれば1秒で一枚を裏換えせるが、少しでももたもたするとあっという間に2秒から3秒かかってしまい、100秒という制限時間を超えてしまう。A氏は大変だ。人間だから10円玉をうまくつかめない時もある。いらだちであせってますますつかめないこともある。ロボットはどうなのだろう。

ロボットはあらかじめ100秒で10円玉を裏返すようにプログラムされている。ロボットに故障でもない限り、時間通りに100枚を100秒で裏返すことができる。ロボットに失敗はない。いらだちもない。

A氏とロボットの両者で成功を勝ち取るには、A氏の手腕次第ということである。A氏は言う。「ロボットに迷惑をかけないように、一生懸命に頑張ろうと思います。ロボットは100枚しかできないから」。

この場合、A氏とロボットは対等の関係にあると言える。A氏はロボットをコントロールしようとはしない。A氏もロボットも与えられる時間と目標は同じであった。お互いが対等の“業務”を対等にこなす状態だ。

 

【コントロールしたくなってしまう】

次に変更がアナウンスされる。実験の担当者が言う。「プログラミングを変更することでロボットは100秒で200回裏返すことができますが、あえて、これまで同様に『100秒以内で、人間が100回、ロボットが100回の合計200回』をお願いします。

2回目の実験が始まる。A氏はなんとか制限時間内にできるように頑張るのだが、ロボットは2倍のスピードでこなし、開始から50秒で100枚を裏返す。残り時間はロボットは停止している。A氏はそれを横目に見ながら、忸怩たる思いが芽生える。

自分が苦労しているのだから、ロボットが手伝ってくれればいいのにと思う。一回目の実験では対等であった関係が、早めに仕事を終えて“ボーっと”しているロボットに対して指示を出したくなる。自分が遅いということではなく、ロボットが何もしていないことに怒りを覚え、ロボットをコントロールしたくなるのだ。

勤務経験が長く、知識が豊富な人間ほどコントロール欲求が強くなりがちである。そういう人間は、心理的な状況を認識し、自らの持つコントロール欲求に気づかねばならない。経験値が上がり、勤務年数が上がるほど相手をコントロールしたくなる。

今、企業間で退職年齢を70歳とすることも検討が始まっている。勤続が長く経験が長い人間が、そうでない人間と対等に関係性を維持することを学ばねばならない。筆者も実験に参加したがやはりロボットに怒りが芽生えた。学ばねば。